イップスとチョーキング

イップスの誤解

イップスとチョーキングは似て非なるもの

「イップス」とは、過度な同一動作(局所意識及び修正含む)によって起きる運動障害です。一方「チョーキング」は、心理的な症状の一つでプレッシャーの影響により自身に不安を感じ、一時的に動作等が円滑に行われない状態を指します。※イップスとチョーキングは別物です。

以下これらの違いについて、イップスとチョーキングを比較しながら説明していきます。

チョーキングとは

心理的に不安になり、一時的に体が硬直したり、意識的に動きを細かくチェックする一時的な症状です。

チョーキングは一般的にプレッシャーがかかった時に起きる”あがり”のことです。スポーツ心理学では「チョーキング」と呼んでいます。以下「チョーキング」について紹介している3点(論文、書籍)ご紹介します。

「チョーキング」の邦訳として広く用いられている用語が「あがり」である。「あがり」に関しては「特に重要な試合や勝敗を決する場面にのぞんだときなどに体験される心身の過度の緊張状態」、「当落や社会的評価など自分自身に否定的評価を受ける場面で他者を意識し、責任感を感じ、自己不全感、身体的不全感、生理的反応や震えを経験することであり、状況によって他者への意識や責任感への程度が変化すること」のように、プレッシャー下での心理面や整理面に重きを置いた定義も存在する。さらには「聴衆の前でのスピーチ、競技試合や入学試験などの状況でパフォーマンスを悪化させる要因」のように先述のプレッシャーと同様の定義も存在する。


スポーツ選手の「あがり」の対処法に関する実践的研究-パフォーマンスルーティンに着目して- 柄木田健太 田中美吏 健康運動科学(2017)7(1)、10

「チョークはふだん無意識のうちにやっている行動について、考えすぎた場合に起こる。『分析による麻痺』と呼ばれるものだ。(中略)プレッシャーのもとでチョークするのは、ある状況にストレスを感じて、その反応としてしくじることだ」


「なぜ本番でしくじるのか プレッシャーに強い人と弱い人」-シアンバイロック著 2011年10月30日初版12P引用

チョーキングって?内的刺激と外的刺激
「チョーキング(choking)」という言葉をご存じでしょうか?チョーキングとは直訳すると、”息が詰まる”、”窒息する ”というような意味で、「不安を感じ息苦しくなる精神状態」を意味しています。スポーツ心理学者のナイデファとセーガルは、「競技選手が自分のパフォーマンスが徐々に低下していると思われる時や、自身のパフォーマンスに対しコントロールを取り戻せないと思われるときに、チョーキングに陥る」と述べています(Nideffer & Sagal, 2001)。
それでは、競技場面で選手のパフォーマンスを大きく低下させるチョーキングとは、いったいどのような要因によって引き起こされるのでしょう。これには、「内的刺激」と 「外的刺激」という二つの刺激が強く影響しているといわれています(Wangら, 2004)。
内的刺激とは、「もし勝てなかったらどうしよう」とか「相手は自分よりきっと強い」のような否定的でネガティブな思考のことで自分の内部から刺激が生まれます。内的刺激が生じると、恐怖を感じ、筋は緊張し、疲労は高まり、心拍数や呼吸数も増加します。そして慌ててしまい、うまくタイミングが掴めなくなるのです。一方、外的刺激とは、様々な環境的要因のことで自分の外部から刺激が生まれます。試合場の騒音やコーチ・審判などの反応が気になり、注意力は競技とは無関係の方向に向かい、脳からは不適切な命令が出され、それによってパフォーマンスが低下します。
つまり、選手が土壇場で最高のパフォーマンス(ピークパフォーマンス)を出すためには、身体的トレーニングや技術練習を継続するだけなく、効率的に内的・外的刺激に対処し、コントロール性を高めなければならないことがわかるでしょう。
「『剣道 心の鍛え方』 矢野宏光(高知大学教育学部教授著)体育とスポーツ出版社 74P~75P」

上述のように「チョーキング(choking))」とは、息が詰まる、窒息するという意味です。「失敗しないように・・」「失敗したらどうしよう。失敗のイメージが・・」と強く考えてしまうあまり、一時的に体が硬直したり一時的に体が思うように動かなくなる状態のことです。例えば、練習中はいつも通りにプレーできるが、本番(試合)になると、急にプレッシャーがかかり“あれ”のことです。恐らく誰もが、1度や2度の経験はあるのではないでしょうか。

また、上述の引用文献にも表記してあるようにチョーキングは、”分析による麻痺”とも言われています。所謂、動作を細かく考えすぎてしまうことです。何らかのプレッシャーによって、失敗を怖がり意識的に「肩を・・、肘を・・、手首をもっと利かせて・・」といった余計な手順を踏んでしまいます。

イップスとチョーキングの見分け方

一見同じように見えてしまうため、注意してみないと対処を間違ってしまいます。

イップスにかかっている選手の投球と、単なるチョーキングのみの選手の投球は、傍目に見ると、一見同じものであるかのように映ってしまいます。よって対応を間違わないよう注意しなければなりません。

簡易的ですが、以下のように整理しましたので参考にしてください(図③)。(最近は、チョーキングとイップスをきちんと分けて考える科学的な研究も進み始めているようです)

<図③>

チョーキングか?イップスか?

こんな症状が出ていませんか?

単なるチョーキングか、局所性ジストニア(イップス)を抱えているか?当研究所のこれまでの実践知による簡単な見分け方ですが、以下に示します。参考にしてください。以下①、②どちらかに該当すれば、イップスの可能性が高いと考えられます。該当しなければ、チョーキングが頻繁に起きている可能性が高いと考えられます。

①不随意運動(プレッシャーを受けていない状態にて)

  • TOP周辺で、手首が内側に屈曲または伸展する(僅かな変化でもあるため本人もあまり気づいていない)
  • テイクバックで肘が伸びたまま、或いは肘が必要以上に屈曲してしまう
  • テイクバックで、利き腕が必要以上に背中側に入ってしまう

フォームの崩壊(感覚的な要素)

  • プレッシャーに関係なく本来のフォームではない感覚がある
  • プレッシャーに関係なく関節が上手く連動しない
  • どうやって投げていいか分からないことがある
  • 普通のキャッチボールでも動作に違和感、不快感がある

イップスの改善

根本からフォームを立て直す必要があります

イップス症状を抱えている選手は、前提としてチョーキングが起きやすい状態にあります。何故なら、そもそも意図する動作ができていない状態だからです。
不随意運動が激しい場合は、専門の脳神経外科等の医師にご相談いただくことをお勧めします(外科手術等が行われています)。イップス症状はあるけども、顕著な不随意運動でなければ、根本からフォームを立て直すことで改善、克服が可能です。操作性の高い、心地よい関節軌道へとフォームを基礎からつくり直します。                              

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チョーキングの改善

チョーキングが常態化している場合は、イップスの一歩手前です

チョーキングが頻繫に起きている場合、そもそも再現性の低いフォームに原因があると考えられます。再現性の低いフォームを保持しているため、内的刺激や外的刺激に強く影響を受けるということです。つまり身体的に不安定なフォームのため、心理的な不安に陥りやすくなっている状態です。解決策は、イップスの改善方法とほぼ同じプロセスですが、イップスを抱えている選手よりも指導工程は少ないです。基礎、基本動作を見直すことです。

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