イップスの治し方

1)イップス症状に悩む選手の声

※イップスについては、こちらを御覧ください➡「イップスとは?」

図①は、イップス克服コーチングを受講された方々(直近の284名対象)の事前アンケートである。
質問:「現在の状態をお聞かせください」※複数回答可。野球、ソフトボール以外の競技の方はその他を選択。

図①

図①のグラフの各項目について、以下補足する。 

◆「よくひっかかる」154ポイント、「よくすっぽ抜ける」153ポイント

イップス症状を抱えていない方が、時々ひっかけてしまったり、時々すっぽ抜けてしまったりする状態とは異なる。イップス症状を抱えている選手は、日常からこのような状態が続いているということである。
「よくひっかかる」とは、リリース直後、地面に叩きつけたり、相手の足元にショートバウンド等の送球になってしまうことである。
一方、「よくすっぽ抜ける」とは、相手がキャッチできないほど、上方或いは左右へボールが逸れてしまうということである。

◆「動作をうまく制御できない」148ポイント

違和感、不快感を伴った意に反する動きが定着しているため、その動きを回避しようとする。現状を受け入れ、意に反する動きのまま、気にせず投げ続けることが出来れば良いのかもしれない。だが、その動きは非常に心地が悪く、本来の動作イメージとも乖離している為、うまく制御できないでいる。

◆「投げ方を忘れた」148ポイント

記憶には、頭を使って覚える「陳述的記憶」と、作業や、運動動作で記憶する「手続き記憶」と2種類あるが、イップスは後者の方である。従って、投げ方を考えて思い出すということではない。
「手続き記憶」を他の動きで例えると「自転車」である。自転車を自然に乗りこなせた方が、急に自転車に乗れなくなってしまうようなことである。サドルにお尻をかける荷重感覚や、左右のバランス感覚、ペダルを漕ぐタイミング、左右の足の出力加減などである。それまでは一連の動作が自動化されていたため、意識する必要もなかったが、その自動化された動きが再現できなくなったため、ほぼ自転車初心者と同レベルになった状態である。これらは、イップス経験がある方には合点がいくはずである。

◆「リリース時、感覚がない」126ポイント

通常、ボールをリリースする瞬間、人差し指か中指の指先に荷重がかかる(両方の場合もあり)が、その感覚が全くないか、微かに感じられる程度になってしまう。そのため、どこでボールがリリースされたか?全くわからない。リリースの手応えがないのである。 

◆「力感がない、力が入らない」119ポイント

力の入れどころがわからない。リリースでパワーを集約したいのだが、そもそもリリースでの感覚が乏しいため、投球動作も空回りしているような感覚に陥っている。

◆「キャッチボールの相手まで届かない」154ポイント

球速の加減調節が難しくなったり、不随意運動がひどくなってしまい、塁間(約25~30m)のキャッチボールまで送球出来なくなってしまう選手も少なくない。

◆「リリース時、リリースポイントを見る」23ポイント

どこでボールがリリースされるか不安なため、つい、リリースポイントを見てしまう行為である。その動きが更に定着すると、テイクバックの途中から見始めてしまう(通常、リリースポイントは僅かに視野に入ることもあるが、見ているという意識はない)。

◆「リリース前に、ボールが手から落ちてしまう」17ポイント

テイクバックの途中で、地面にポトリッと落下してしまうことである。偶然というよりも、頻繁に落ちてしまうことである。多くはリラックスしようと努めるも、力を抜きすぎてしまうのである。力の出力加減がうまくいかないのである。

◆「そのほか」43ポイント

以下図②が「そのほか」の一部抜粋である。

図②

上記図①、図②のイップスに悩む選手の声からも分かるように、選手によって多様な症状がある。総じて言うと、以前出来たことが出来なくなっている。このような症状が、プレッシャーのない時にでも起きてしまっている。イップスに外傷や痛み、痺れはない。これらがあれば、自他ともに“故障者“として認識もできるのだが、そうではない状況で投げ続けているため、非常に辛い状況が続いている。

2)イップスのきっかけ

受講者にイップス症状の「きっかけ」について、アンケート(直近190名)を頂いた。

図③

以下、図③のグラフの各項目について、以下補足する。 

暴投(試合や練習時)40%

選手へ直接ヒアリングすると、プレッシャーによる暴投(チョーキング(あがりと、予期せぬ暴投の2種類の声が聞かれた。プレッシャーによる暴投(チョーキング)は、容易に想像できると思う。予期せぬ暴投は、例えば、雨天の試合で、たまたま指が滑り暴投。また次も暴投するのではないか?と不安になり、以降コントロールが乱れてしまうことである。
チョーキング(あがり)が先で暴投し、その後これは”まずい”と思い、反復練習へと進んだのか、予期せぬ暴投が先で、その後”また次も暴投するのではないか”と不安になり、反復練習へと進んだのかはハッキリしなかった。
「チョーキング(あがり)」について、本HP内「イップスとは?」の『8)イップスの誤解(イップスとチョーキング)』を御覧ください。

◆ミスプレー(暴投以外)6%

緊迫した場面や、ふとした状況でのミス(捕球ミス、サインミス等)で点を献上してしまい、以降その影響が投球動作へ影響してしまったことである。

◆フォームの変更16%

テイクバックやトップ位置、リリース位置(肘の高さ)、体重移動等の修正である。多くは局所修正である。フォーム修正は、指導者等から勧められたものや、自らの意思で修正したものの2種類あった。これも曖昧な認識が多く判別がつかなかった。何故なら指導者等から勧められたものでも、本人が納得合意し臨んだものもあったからである。

◆肩肘などの故障12%

肩、肘の故障後、リハビリが十分ではない状態で無理に投げ始めてしまい、以降不具合を感じ始めたことである。

◆その他11%

不明

◆オフ明けの練習から9%

久しぶりのキャッチボール開始時に違和感があった。

◆怪我(肩肘以外)5%

足、腰、背中等の故障後、リハビリが十分ではない段階で投げ始めてしまい、以降不具合を感じ始めたことである。

2)イップスの2種類の”きっかけ”

図③アンケートの結果から、「アクシデント型」(暴投やミスプレー以外を包括してアクシデントとした)が”きっかけ”と考えられるものと、「チョーキング(あがり)型」がきっかけと考えられるものと2種類に分けて考えた。

図④

図④について、アクシデント型(アクシデントがきっかけとなるもの)が割合としてやや多いが、大差はないように思う。むしろ、チョーキング型(チョーキングと考えられるもの)の、暴投(試合や練習時)の40%が、際立っているように見える。ということは、イップスにかかる選手の多くは、何等かの投球(送球)ミス等がきっかけで、投げ込みや、スローイング練習(過度な同一動作)への原因につながる行為へと発展しているケースが高いと窺い知ることができないだろうか。
ただ、ここで注意したいのは、これらは”きっかけ”に過ぎないということである。原因ではない。ということを理解しておく必要がある。

3)イップスの発生フロー

図⑤

図⑤は、イップスの発生フローを表している。アンケートの結果や、実際に400名を超える選手へマンツーマン指導を行ってきた彼らの実情をもとに、工藤氏、古屋氏、中野氏らの解説を融合させた。学術的にエビデンスが必要なところではあるが、実体験している方々のリアリティある声と、その選手たちを見てきた知見を土台に作成しているため仮説としては成り立つと考えている。

以下、イップスのフローを解説する。

<きっかけ ◆チョーキング型・アクシデント型

きっかけには「チョーキング型」と「アクシデント型」があると考える。チョーキング型は、主としてプレッシャーを受けたことでミスをしてしまい、後の過度な反復練習へと移行。アクシデント型は、フォーム修正や故障、その他である。つまり、きっかけは1つではない。

<原因 ◆過度な同一動作

原因は既に言うまでもない。過度な同一動作である。「きっかけ」だけでは結果は成り立たない。つまり、野球でいう、投げ込みやスローイング練習等の投げ過ぎが原因である。

とはいえ、ただの投げ過ぎというだけでは、いま一つスッキリしない。そこで、なぜ、選手は必要以上に反復練習を行ってしまうのか?そのような疑問が湧き上がってくる。恐らくそれは反復練習に対する認知バイアスではないろうか?

※①反復練習の認知バイアス

認知バイアスとは、先入観や思考の偏りのことである。もっと平たく言うと、思い込みである。反復練習の認知バイアスとは、反復練習を行うことで、コツをつかんだり、次第にフォームが修正されて行くだろう・・といった先入観のことである。つまりミスをした場合、”何百球、何千球も投げ込むことで、改善されるのでは?”といった考え方である。
反復練習を行うことで、フォームも固まり、スキルアップにつながる。誰も異論はないと思える・・・ただ、それは機能的に連動している(し始めている)フォームに限った話ではないだろうか? その”前提の確認”をせずに、ただ回数をこなせばいいわけではない。過度な力みや、焦りのある状態、調子が良くない状態、或いは故障が癒えていない状態で、過度に反復動作してしまうと、ギクシャクした動きに繋がり、機能的ではないフォームが出来上がるのではないだろうか?
工藤氏、古屋氏の言う脳内地図のオーバーラップとは、この過程が発展して出来上がったもの(イップス)ではないだろうか?
反復練習は、導入の仕方によっては、プラスの要素とマイナスの要素がある。指導者は勿論、選手自身も気を付けなければならないと考える。

実際にイップス症状に悩む選手の声と、私自身の経験値を重ね合わせると、ある共通点が出てきた。それが以下の2点である。

※②過度な局所意識

局所意識とは、全体の中の一部分を意識することである。指導者等から、ある箇所の改善指導を受けたことや、自らプロやメジャーリーガー等、一流選手の投球フォームの動画等を観て、ある一部分を過度に意識して反復練習を行うことである。試す程度や加減を心掛けて行えば、気づきや確認が得られて良いのだが、やり過ぎてしまうことである。局所意識でよく耳にする修正は、以下の通りである。

・テイクバックの軌道

・TOPの位置、及び手のひらの向き

・グラブ側の腕の使い方、肩甲骨の使い方

・リリース時の手首の使い方

・リリース時の指の弾き方

・体重移動の仕方

・骨盤の使い方

・軸足の蹴り

これらは、これまで当所レクチャーの中で数多く耳にした、過度な局所意識の一例である。これらの局所意識は、あくまで全体の中の一部であるということを念頭に置き、練習しなければならないにも関わらず、意識が過ぎてしまうと連動性を損い、元のフォームさえも崩してしまうことを忘れてはならない。

※③過度な局所修正

※②過度な局所意識とリンクしている。軌道や位置を意図的に修正をかける。それも手先、足先や肩甲骨、骨盤等の一部の動きを何度も意識しながらの修正を繰り返すことである。ただ一部を修正することのみを目的に反復してしまうと、いつの間にか連動しないフォームが出来上がる。

手応えのない状態で、”ああでもない、こうでもない”と反復練習を過度に行うと、それまでのフォーム(型)が崩れてしまう。

※④運動プログラムの自動化が崩壊→定着(フォームの崩壊→フォームの定着)

自動化されたフォームが、過度な反復練習によって、一旦崩壊し(※フォームの崩壊)、崩壊した状態のまま更なる反復練習によって、新たなフォームが出来上がる(※フォームの定着)。
そうして出来上がったフォームは、“不具合が定着した新たなフォーム”である。それがイップスであると考える。

<まとめ>

当然のことではあるが、当該競技への価値観が高い選手や、向上心が強い選手ほど、故障で戦線離脱したり、ミスをした直後は、一刻も早く本来の状態に戻そうと努める。その為、過度な反復練習の行為に及びやすい。特にそのような状況下で行う反復練習は、力み、焦りを生じやすい。
もし、このようなことを選手、指導者が知っていれば、原因を作らずに済むのではないだろうか?。指導者は、投手が四死球を連発したり、野手がスローイングでミスしてしまった時、本来の動きを取り戻すために居残りで過度な投球(送球)練習で取り戻させるのではなく、何故ミスが起きたのか?どういった準備をすればよかったのか?など、冷静に思考整理する時間を与えることが可能となる。「早く切り替えなさい!」と声を掛けることもできる。
また、選手がこのようなことを知っていれば、一旦ボールを置き、冷静に振り返ることが可能となる。積極的にリフレッシュすることもできる。セルフコントロールにもつながると思われる。きっかけは誰にでも起こる。原因をつくらないことである。

4)注意!やってはいけない5つの練習

①ネットスロー(2、3ⅿ前にネットを設置し、防球ネットに投げ込む練習)

理由:かえって逆効果。手先への過剰意識が増幅する。リリースポイントを定める為に行っていることを耳にする。だが絶対におススメしない。稀に「自分はネットスローで、イップスが良くなった」という声を耳にするが、ネットスローで良くなったというより、他の要素(コンバートやノースロー、根本的な投げ方の変更等)の結果だと考えられる。※10球~20球程度の確認なら良いが、何十、何百球も投げるものではない。

天井投げ(寝転がり、天井に向かって投げる行為)

理由:かえって逆効果。手先への過剰意識が増幅する。イップスは「手首が利いていない」ということで、スナップスローを勧める方がいる。だが、絶対におススメしない。手首が利いていないのは、新たなフォームで構築されたもの(結果)である。余計に手首への過剰意識がはたらき、手首と腕の連動性を更に欠いてしまう恐れがある。

シャドウ(利き手にタオルを持ち、タオルを振る。投げる動作を行う)

理由:腕でタオルを振ることばかりに意識が向かってしまう。闇雲にシャドウを行ったからといって、フォームが固まるわけでもなく、コントロールがつく分けでもなく、球速が上がるわけでもないと考える。シャドウは確認程度で良い。タオルを持たないシャドウをお勧めしている。

➃強引な遠投

理由:程よい距離なら問題ない、肩肘の腕力に頼る遠投は逆効果。お勧めしない。いくら「練習でいつもやっていることだから・・」と言っても、不具合、不連動な状態で、関節を動かすため、故障に繋がる可能性が高い。投げれば投げる程、本来の感覚から遠ざかってしまう。

⑤テイクバックやトップ位置の過度な修正練習

理由:かえって悪化する可能性が高い。テイクバックやトップ位置に理想を描き、こだわり、過度な意識操作を試みると、それまでの動作の自動化は崩壊に向かいます。かえって手投げを助長します。
導入の仕方を間違えると、利き手が頭部に衝突して投げられなくなったり、余計な動き(不随意な動き)が生まれやすくなり、もとに戻らなくなってしまいます。※テイクバックやトップの修正にはきちんとしたやり方がある。

※これらやってはいけない5つの代表的な練習は、これまでのイップス克服指導の実践知から得られた貴重なノウハウです。誤作動が続くイップスの選手が行うとかえって逆効果になりかねません。注意が必要です。

5)イップスの対処について      

「もしかしたらイップス?・・」と思ったら、まずは必要以上に投げることは避けること。どのフォームが合うか?・・と、肘の高さを変えたりしないこと。特に投手の場合は、安易にサイドスローやアンダースローへの変更をしがちである。「どれくらいの肘の高さが合うか?」等、模索しながらのフォーム変更をお勧めしない。二度と本来のフォームに戻れないケースが多々ある。安易に変更しないことである。

<一時的な対処2点>

①ノースロー・・上記にも記述してあるが、一定期間投げないこと。個人差はあるが、最低2週間は投球は控え、ランや打撃練習等に集中する。特に足を動かす。反復横跳びやラダーなどは好影響が期待できる

②コンバート・・一時的でOK。投手、捕手、内野手なら外野手へ。外野手なら内野手への変更を勧める。理由は、ポジションチェンジによって、局所的ではなく、投球全体の一連の動きが変化すると考えられるため。特にフットワークがポジションによって異なる。足の動きはテイクバックやTOP位置に影響を及ぼす。リフレッシュするためにも良い。

尚、不随意動作が激しい場合は、局所性ジストニアの手術経験のある脳神経外科の先生へご相談されることをお勧めします。

分からない場合はご相談ください➡「無料相談(初めての方へ)」          

6)イップスの治し方(重心制御技法について)

イップスの“きっかけ”は、選手によってさまざまです。しかし“原因”は学術的にも、現場の選手の声からも「過度な同一動作」であることが既に明らかになっています。

イップスは、運動障害です。「過度な同一動作」によって、それまでの一連の運動プログラムが崩れ、その崩れた状態で、意に沿わない新たな運動プログラムが定着した状態のことを指します。まずはその“事実”を知ることから改善のスタートです。

本所では、好ましい動感を生み出すために体系化したプログラムを構築しています。それが「重心制御技法」です。「重心制御技法」は、ボールコントロールの安定感を引き出す為に、重心の安定を重要視しています。そのため、重力を最大限活用し、重心線を整えます。また、重心の周辺部位制御にも着目し、機能的な動作を引き出します。不快で不連動なもつれをほどき、自然で、連動感ある自動化されたフォーム(スムーズな動き)の発現を促します。重心が安定した動作は、再現性が高く、リリースされたボールは必然的にコントロールされていきます。リリース(インパクト)が安定し、制御感の回復を促します。

既に多くの方が即時的効果を実感しています。

図⑥

 

1.動感(運動感覚)の再構築※手応えを得る

投球時における適切な重心位置を獲得する。重心の安定した投球動作は、安定したフォーム(型)の基礎をつくる。安定したフォームは、次第に手応えを感じ、投球動作の運動イメージを喚起する。

2.連動性を高める※”快”な動きを得る

上半身と下半身及び左右との連動性が高まることで、より”快”の感覚を引き出す。連動性が高まることで、オーバーラップしている動きが次第に緩和される。「投げていて心地良い、ストレスを感じない」といったコメントが聞かれるようになる。

3.再現性を高める※安心感を得る

動感(運動感覚)を再構築し、連動性ある動作を発現出来るようになると、あとは、その好ましい動作に再現性を持たせるための反復動作を行う(過剰にならないよう、セーブしながらフォームの基盤固めを行う)再現性の高い動作は安心感を得る。