イップスの原因

イップスの原因と発生フロー

イップスのきっかけから原因、結果までのフロー図

上の図は、イップスの発生フローを表しています。受講者アンケートの結果や、実際に400名を超える選手へマンツーマン指導を行ってきた彼らの実情をもとに、工藤氏、古屋氏、中野氏らの解説を反映させました。実体験している方々のリアリティある声と、その選手たちを観察してきた知見を土台に作成しているため仮説としては成り立つと考えています。

きっかけはアクシデント型・チョーキング型

きっかけには「アクシデント型」と「チョーキング型」があると考えています。「アクシデント型」は、フォーム修正や故障、その他であるのに対し、「チョーキング型」は、プレッシャーを受けたことでミスをしてしまい、後の過度な反復練習へと移行してしまったケースです。

過度な同一動作がそもそもの原因

原因は、既に言うまでもありません。過度な同一動作です。「きっかけ」だけでは、結果は成り立ちません。工藤氏が唱える過度な反復動作(投げ込みやスローイング練習等の投げ過ぎ)が原因です。

原因① 反復練習の認知バイアス

そもそも、何故、選手は過度に反復練習を行ってしまうのでしょうか。
これまで多くのイップス症状に悩んできた選手の声から類推すると、次のような信念(バイアス)の背景があるように窺えます。

・「反復練習すればするほど、うまくなる(はず)」
・「練習は嘘をつかない(はず)」
・「常に全力でやれば良い結果が出る(はず)」
このような信念(バイアス)は、向上心が強い選手、ストイックな選手に多いのではないかと思われます。

原因② 過度な局所意識

過度な局所意識とは、全体の中の一部分を過度に意識することです。例えば、指導者等から、ある箇所の改善指導を受け、ピンポイントな点に意識を置き練習することです。また、自らの意思でプロやメジャーリーガー等、一流選手の投球フォームの動画等を観て、ある一部分を過度に意識して反復練習を行うことです。

どちらも、動感(運動感覚)や加減を心掛けて行えば、気づきや確認が得られて良いのですが、やり過ぎてしまうと。かえって局所意識を増し、チョーキングでいう分析による麻痺を生み出すことに繋がる可能性がでてきます。局所修正でよく耳にする修正は、以下の通りです。

  • テイクバックの軌道
  • TOPの位置、及び手のひらの向き
  • グラブ側の腕の使い方、肩甲骨の使い方
  • リリース時の手首の使い方
  • リリース時の指の弾き方
  • 体重移動の仕方
  • 骨盤の使い方
  • 軸足の蹴り

これらは、これまで当研究所のコーチングにお越し頂きました選手から、耳にした一例です。局所意識は、あくまで全体の中の一部であるということを念頭に置き、練習しなければなりません。何故なら、あまりに一部に集中し過ぎてしまうと、周辺関節の連動性を損ない本来のフォームの神経回路を崩してしまうからです。(自動化が崩壊)

原因③ 過度な局所修正

※上述『②過度な局所意識』とリンクしています。テイクバックの軌道や、リリースの位置を意図的に修正をかけることです。それも手先、足先や肩甲骨、骨盤等の一部の動きを何度も意識しながらの修正を繰り返すことです。ただ一部を修正することのみを目的に反復してしまうと、いつの間にか連動しないフォームが出来上がります。

原因④ 運動プログラムの自動化が崩壊→定着(フォームの崩壊→フォームの定着)

自動化されたフォームが、過度な反復練習によって、一旦崩壊し(フォームの崩壊)、崩壊した状態から、更なる反復練習によって、新たな神経回路が出来上がります(フォームの定着)。

※神経の可塑性・・神経科学の領域では、この変化を「神経の可塑性による変化」と言われているそうです。可塑性とは、粘土に例えた場合、粘土の塊を指で押すと当然へこみます。そして粘土から指を離すと、押された分だけ凹んだまま、元の形には戻りません。この性質を「可塑性」と言います。このような神経の可塑性によってイップスが発症しているのです。こうして出来上がったフォームは、“不具合が定着した新たなフォーム”です。それがイップスであると考えます。

こうした要因の結果、イップス(局所性ジストニア)に

きっかけ→原因→結果。この流れが、イップスに至るフローだと考えています。

尚、当研究所には、小学生~プロ選手(野球、テニス、ゴルファー、ダーツなど)といった各種スポーツ選手にお越し頂いています。年齢層も10代~50代後半の方まで(指導者含む)いらっしゃいます。パフォーマンスレベルや年齢層に関わらずお越しになられています。つまり、スキルが高いから、ある一定の年齢層のみ。といったある特定領域のことではないようです。自動化されたフォームを持っている方であれば、誰でもイップスにかかり得るということです。

まとめ

当然のことですが、当該競技に真剣に取り組んでいる選手や、向上心が強い選手ほど、故障で戦線離脱したり、ミスをした直後は、一刻も早く本来の状態に戻そうと努めます。その為、過度な反復練習の行為に及びやすいと考えられます。特にそのような状況下で行う反復練習は、力み、焦りを生じやすいので注意が必要です。もし、このようなことを選手、指導者が知っていれば、原因を作らずに済むのではないでしょうか。

例えば指導者は、投手が四死球を連発したり、野手がスローイングでミスしてしまった時、本来の動きを取り戻すために居残りで過度な投球練習(スローイング練習)で、状態を取り戻させるのではなく、何故ミスが起きたのか?どういった準備をすればよかったのか?など、冷静に思考整理する時間を与えることが必要です。指導者も一緒に考える姿勢が大切だと考えます。

一方、選手自身がこのような過程を知っていれば、一旦ボールを置き、冷静に振り返ることが可能となるのではないでしょうか。すると、積極的にリフレッシュすることもできますし。セルフコントロールにもつながると思われます。きっかけは誰にでも起こります。原因をつくらないことです。