プロ野球のキャンプが一斉にスタートし3、4日が経つ。注目のドラフト入団選手や、大型補強で獲得した選手の特集がスポーツニュースで相次いで取り上げられている。主力選手の顔ぶれが一変している球団もありこの時季話題も事欠かない。
インタビューに答える選手たちは「順調です」、「いい感じで仕上がっています。」といったコメントが返ってくる。そんな選手の“調子“のコメントを聞いていると、昨年末、2011年シーズンを振り返ったイチロー選手のコメント(日刊スポーツ12/27)を思い出す。
「手応えがあったわけでもないのに、結果が出る。最も危険なスタートだったと言えるでしょう・・」そう。イチロー選手は昨シーズンがスタートした4月、39安打(リーグ単独トップ、自己最多タイ)の好調な滑り出しであった。今年も200安打を十分に予感させたスタートだった。しかし、その勢いは5月に入り次第に減速していく。
「4月は結果と感触のギャップがこれまでで最も大きかったと言えるでしょう。結果が出ているときに「これは不正解」という判断が必要・・しかしそんなことは僕にはできなかった」.
何もイチロー選手に限らないが、野球選手にとってこの“感触”はとても重要だ。インパクトやリリース瞬間の手指の感触、身体の振動感、その手応えなど微細な感覚をバロメーターにしてアスリートは自身の状態をつかんでいる。
イチロー選手の場合、昨シーズン当初は手応えを感じていないにも関わらず、結果が出てしまっていた。ということである。しかし、なかなか難しいものである。結果が出ていれば誰もが良しとしたがる。いや「良し」としてしまう。そこを「そうではない」と切り込んでいくことは到底難しい。
さてここでイップスの話になるのだが・・。イチロー選手はシーズン途中でそのギャップに気付き修正することができた。後半戦はもしかしたら今年も200安打?という期待を感じるところまで状態を整えてきた。おそらくこれは至難の業ではないかと考える。通常、この状態になると焦りやプレッシャーが重なり、一機にフォームやバランスを崩し、調子をさらに下降させてしまう。この“感触のギャップ“は予想以上に大きいと捉えた方がいい。
どうしたら、このような感触のギャップが起こるかを私なりの考えを4つ述べたい。
まず①「環境の変化」。食生活や住環境から始まり、グラブやバット、身に着けているものすべてに変化を起こすと動作、感触そのものにも変化が起きると考える。
そして②「意図的なフォーム改造」。これは明らかである。投げ方、打ち方が変われば当然そのインパクト(感じ方)も変わる。
次に③「体重の増減」。これも明らかである。身体にかかる負荷値が増減すれば、感じ方にも変化は生じる。
もうひとつは④「パワーアップ&パワーダウン」。ウェイトトレーニングの結果、筋量、筋力ともに増加した場合、バットが軽く感じたり、ボールが軽く感じたりする。
意外にもこのパワーアップしたことで以前の感覚でうまく動作することができず、かえってパフォーマンスが落ちるケースがあると思われる。したがって、軽く感じることが必ずしも良いことではないことを覚えておこう。パワーダウンは言うまでもないだろう。
極端な例え方かもしれないが、今まで乗用車を運転していたのが、数ヶ月後に大型の4駆に乗り換えたようなものだ。乗用車のようなハンドリングではうまくいかないのは明らかである。大型4駆に乗れば大型4駆のハンドリングをしていかなかればならない。
特にこの④のケースで感触を失い、本来の投球動作、打撃操作ができなくなった選手は多いのではないだろうか?。イップスになってしまう原因はここにも潜んでいると思われる。(ちなみに私も高校時代、大学時代にその感触を2度体験している。どれも取り戻すことは容易ではなかった)。
ではどうしたらよいか?であるが。その答えは2つ。
ちょうど野球のシーズンインにかかる時期なので、前提としてはシーズン開始前に“感触のギャップ”を感じたらということで以下に述べる。
◆スピードを緩める
感触のギャップがあるということは、操作そのものにどこか不具合が生じていることが多い。身体の操作感覚を再度感じ取ることが重要。そのためにゆっくりとさらにゆっくりと身体を、関節を操作し、どのように動いているかひとつひとつの動作を実感することに戻ることである。この時期は我慢が必要だ。
ポイントは“極端にゆっくりと行うこと”。動きが中途半端に遅いと意味を成しえない。ビデオのスローモーション並みから行うことである。
◆負荷を落とす
もう一つは、負荷を落としかつ加減をすることである。パワーアップすることでゆとりを持てば良いのだが、かえってもっと力を出してやろう!と力んでしまうことが多々ある。するとかえって逆効果を引き出すことがある。軽く、加減をした動作を行うこと。
まとめ
感触のギャップを感じたらそのままにしないこと。ギャップがあったらスピード&負荷を落とすこと。そうしてひとつひとつの感触を実感しきったら少しずつ本来の速さに戻していく。再現性を高めてからスピードを求める。普段のパフォーマンスもこのハンドリングと加減を意識しながら行うことが大切。その点について留意していくことでイップスのような現象も少なくなると考える。