トレサポ・コラム vol.4 「スピードじゃないぞ!」~イップスの原因を考察~

「スピードじゃないぞ!」少年サッカーチームのコーチの声だ。

先日、小学1、2年生のサッカーの試合会場の横を通った際、そんな声を耳にした。続いて「そんなに速くドリブルできても、抜けるのは今だけだ。きちんとボールを持て」ゴールに向かって一目散にドリブルしていた子供のトップスピードが緩む。

全く同感である。小中高そして大学と、もって生まれた資質をそのまま生かしている選手をよく目にする。“長所を伸ばす、素質を活かす“という意味ではいいと思うのだが、それでは基本的なことをおなざりにしてしまう可能性がある。

素質だけで競技力を向上させようとするとやがて必ず壁がやってくる。体格だけで俊敏性だけでやれるレベルであれば、もって生まれた素質だけで抜きん出ることは可能だ。しかし競技レベルが向上すればするほど、スピードやパワーだけではやっていけない時期が必ずといっていいいほどやってくる。

投手でいえば速い球にロマンを持ち続け、いつまでたっても150キロを追い求める。スピードガン競争の選手であればそれでもいいのかもしれないが、野球の投手はそれと違う。打者であれば、飛距離を持ち味としている選手。ゴルフのドラコン選手権の選手のようにどれだけスタンドインがあったかで順位決める競技であればそれもまたいいが。しかし野球の打者はそれと違う。本当にプロや社会人を見ていてもスピードやパワーを基準にしている選手はいまだに非常に多い。体格、素質に恵まれた選手ほどそうである。そしてそのような選手に限って動作の「コツ」をつかんでいない選手が多い。スピード&パワーに頼るパフォーマンスを継続していると、何かの拍子に「ふっと」動作の手順や手応えが消えてしまった場合、それを取り戻すのに非常に困難な状況に陥る。なぜか?それはどうやってその動きが出来ていたかを認知していないからだ。だから再現する能力がついていないのだ。私が考えるにそれがイップスにおけるひとつの始まりであると考える。

もしあなたが、あなたの知人がスピードやパワー偏重で競技力を向上させているのであばその危険性があることを認識してほしい。

以下3つを留意しておいてほしい。

「スピードがある選手ほど、ゆっくりとした動作を行い、その動作がどのように行われているかを認識すること」

「パワーがある選手ほど、軽めの荷重で操作性の維持、向上に努めること」

「身体動作の技術が優れている選手ほど、スピードとパワーに目を向けること。」

トレサポ・コラムVol.3 「動作中に動作解析は行うな!」

「腕の力を使わず、左足を地面に着けた反動で腕が上がってくる・・」。4年連続2桁勝利のオリックスのエース・金子千尋投手はそう語っていた(24年2月15日 報道ステーション)。

特に野球の投手は理想のフォームを追い求めて、腕や肘、手首、リリース時の指の動きなど、動作中の動作の解析ばかりを行っていないだろうか?

●●投手、△△投手のような理想のフォーム(形)や自分が求めている形ばかりにとらわれすぎていると、本来自分独自の形を見失ってしまう。そもそも理想のフォームに近づけようとする行為は、現在自分がその形ができていないことが前提にあり、また他の人の動作システムを導入することにある。

一般的に五体満足で野球を行うことができている選手は、みな同じような身体機能をもっている。しかし一人ひとりその身体機能の使い方は千差万別である。投手であれば、軸足の使い方、肘の上がり方、ひざの使い方、トップの位置・・。みな、それまで生まれ育った環境やもって生まれた動作の癖などをもっている。同じように見えて実はその感じ方が微妙に違う。投球フォームというものは意識してつくるものではない。フォームをつくるのはその人の身体であり、その人の感覚である。考えてつくるものでもなければ、他人から他人の動作システムをそのまま移植することでもない。自然にその動きになるのである。

これはバッティングにしてもそう。プロ野球選手の打席に入る姿を見ていても、フォームばかりを気にして打席に入っている選手、またはフォームを意識的に変えている選手が目に付くことがある。見ていて明らか。せっかくすばらしい素質をもっているのに時々いい当たりをしてはその成果が持続しない。自分がそうしているのか、コーチがそうさせているのかはわからないが、きれいに見えるものを追い求めているのが見て取れる。

逆に意識的に変えるのではなく、変わっている選手も時折見る、それはシーズンや投手などの環境によって変化している選手である。そういった選手は意識が自分のフォームではなく、自分の外にある。対象は目の前にあるもの。投手であればキャッチャーのミット、打者であれば投手が投げたボール。形にこだわっている暇などもっていない。

いわば自分の外の世界にきちんとアジャストしている。いわば考えていない。五感を外に向けて対応している。変化に対応できる。だから環境による変化があっても身体が勝手に対応している。身体は、感覚は頭で考えているより、ずっと記憶力があり従順である。自分の身体を信じること。感覚から得た情報をきちんとフォームにフィードバックさせること。

例を上げるとそのひとりが金子千尋投手であり。

打者でいえばまたイチロー選手である。

投手で肘から上げるとか、足をどうのこうのとか、考えながら動作を行っているとイップスの原因をつくってしまう。現在私のところにイップスの相談で来訪している選手にもこれは伝えている。腕の位置や肘の上がり具合は一切関係ないとレクチャーしている。

するとそれまで見たこともないような回転のいい、切れのあるボールを投げてくる。

トレサポ・コラムVol.2 「プレッシャーに強い人とは?」

「認知処理能力が高い人ほど失敗する可能性が高い」。シカゴ大学心理学部准教授のシアン ベイロック氏(Sian Beilock)はこう語る。認知処理能力とは、関係のないことあること(必要である、ない)を区別する処理能力のことらしい。この認知処理能力が高い人というのは作業メモリ(記憶)を複雑かつ同時に働かせ処理をする(処理できる)人のこと。いわゆる“頭がいい“といわれる人たちである。

一般的に何でも“頭がいい方がいい”と思われている。しかしプレッシャーがかかる場面ではどうやらそうではないらしい。プレッシャーがかかる場面では、認知処理能力が高い人ほどミスを誘発し求めている結果にはなりずらい。むしろ認知処理能力の低い人の方が、プレッシャーのかかる場面では好ましい結果を得やすいという。

それはなぜか?・・。

私たちには作業メモリと呼ばれるものがある。プレッシャーがかかった場面では、作業メモリの処理能力が高い人は、複雑かつ豊富な算出方法で答えを導き出す傾向にある。それがかえって作業メモリに負荷をかけてしまうらしい。焦りにも似ているだろうか。

一方、作業メモリが少ない人たちはそもそもシンプルに答えを導き出す傾向にあるので、プレッシャーがかかっても簡単な計算式しか使わないそうだ。

ということは、、、

プレッシャーがかかった場面では大きく2つのタイプに私たちは分類される。そう。考えすぎてしまう人と、考えすぎない人である。

考えすぎない人は、不安があっても回路そのものがパフォーマンスに影響を及ぼすことは少ないということだ。シアンベイロック氏はさらにこう話す。「集中しすぎないことがパフォーマンス向上つながる」と。そして「気を散らすこと」と付け加える。これまでとは常識を覆した研究発表である。

さてスポーツではないが、ジャグリングを例にとってみよう。観衆の目の前でプレッシャーのかかる状況で、いちいち「腕をこう曲げて、この瞬間に離して、次に左手をこのタイミングで・・」なんて考えていたらそれこそ動きがギクシャクしてしまう。

もちろん初めてジャグリングをした頃は皆テクニックを覚えるためにそのプロセスは通貨したはずだ。しかし、慣れた人がましてやプロがこれをやってしまうと大変なことになる。想像に難くない。

実はイップスもこの「ああして、こうして・・」の状況に近いのだ。昨日までできていたものが、今この瞬間から急に感触が薄れ、その動きをコントロールできなくなる。

「あれっ、どうしてだろう?」

「どうにかしなければ。確か腕をこうして、ああして肘から・・」

野球に限らず時折スポーツでも指導者が叫んでいる姿を目にすることがる。この間は息子のサッカーの試合で相手チームのコーチが選手にインプレー中に「よく考えろ!!」と叱咤していた。

「考えなければならない時は考えろ」しかし「考えてはならない時は考えるな」の方が正しいのだろう。昔読んだ「ゴルフ『ビジョン54』の哲学」 ピア・ニールソン&リンマリオット、ロンシラク著のキーワードを思い出す。その本の一節に「思考ボックス」と「実行ボックス」が必要。そう考えるスペースと考えないスペースを区別してプレーするべくだと。

最後に、今もっている最高のパフォーマンスを出したいのであれば、動作中に思考を入れてはならないということだ。反応、判断に任せるということだ。

考えないスキルの技術習得が必要である。

トレサポ・コラムVol.1 「結果と感触のギャップは要注意」

プロ野球のキャンプが一斉にスタートし3、4日が経つ。注目のドラフト入団選手や、大型補強で獲得した選手の特集がスポーツニュースで相次いで取り上げられている。主力選手の顔ぶれが一変している球団もありこの時季話題も事欠かない。

インタビューに答える選手たちは「順調です」、「いい感じで仕上がっています。」といったコメントが返ってくる。そんな選手の“調子“のコメントを聞いていると、昨年末、2011年シーズンを振り返ったイチロー選手のコメント(日刊スポーツ12/27)を思い出す。

「手応えがあったわけでもないのに、結果が出る。最も危険なスタートだったと言えるでしょう・・」そう。イチロー選手は昨シーズンがスタートした4月、39安打(リーグ単独トップ、自己最多タイ)の好調な滑り出しであった。今年も200安打を十分に予感させたスタートだった。しかし、その勢いは5月に入り次第に減速していく。

「4月は結果と感触のギャップがこれまでで最も大きかったと言えるでしょう。結果が出ているときに「これは不正解」という判断が必要・・しかしそんなことは僕にはできなかった」.

何もイチロー選手に限らないが、野球選手にとってこの“感触”はとても重要だ。インパクトやリリース瞬間の手指の感触、身体の振動感、その手応えなど微細な感覚をバロメーターにしてアスリートは自身の状態をつかんでいる。

イチロー選手の場合、昨シーズン当初は手応えを感じていないにも関わらず、結果が出てしまっていた。ということである。しかし、なかなか難しいものである。結果が出ていれば誰もが良しとしたがる。いや「良し」としてしまう。そこを「そうではない」と切り込んでいくことは到底難しい。 

さてここでイップスの話になるのだが・・。イチロー選手はシーズン途中でそのギャップに気付き修正することができた。後半戦はもしかしたら今年も200安打?という期待を感じるところまで状態を整えてきた。おそらくこれは至難の業ではないかと考える。通常、この状態になると焦りやプレッシャーが重なり、一機にフォームやバランスを崩し、調子をさらに下降させてしまう。この“感触のギャップ“は予想以上に大きいと捉えた方がいい。

どうしたら、このような感触のギャップが起こるかを私なりの考えを4つ述べたい。

まず①「環境の変化」。食生活や住環境から始まり、グラブやバット、身に着けているものすべてに変化を起こすと動作、感触そのものにも変化が起きると考える。

そして②「意図的なフォーム改造」。これは明らかである。投げ方、打ち方が変われば当然そのインパクト(感じ方)も変わる。

次に③「体重の増減」。これも明らかである。身体にかかる負荷値が増減すれば、感じ方にも変化は生じる。

もうひとつは④「パワーアップ&パワーダウン」。ウェイトトレーニングの結果、筋量、筋力ともに増加した場合、バットが軽く感じたり、ボールが軽く感じたりする。

意外にもこのパワーアップしたことで以前の感覚でうまく動作することができず、かえってパフォーマンスが落ちるケースがあると思われる。したがって、軽く感じることが必ずしも良いことではないことを覚えておこう。パワーダウンは言うまでもないだろう。

極端な例え方かもしれないが、今まで乗用車を運転していたのが、数ヶ月後に大型の4駆に乗り換えたようなものだ。乗用車のようなハンドリングではうまくいかないのは明らかである。大型4駆に乗れば大型4駆のハンドリングをしていかなかればならない。

 特にこの④のケースで感触を失い、本来の投球動作、打撃操作ができなくなった選手は多いのではないだろうか?。イップスになってしまう原因はここにも潜んでいると思われる。(ちなみに私も高校時代、大学時代にその感触を2度体験している。どれも取り戻すことは容易ではなかった)。

 ではどうしたらよいか?であるが。その答えは2つ。

ちょうど野球のシーズンインにかかる時期なので、前提としてはシーズン開始前に“感触のギャップ”を感じたらということで以下に述べる。 

◆スピードを緩める

感触のギャップがあるということは、操作そのものにどこか不具合が生じていることが多い。身体の操作感覚を再度感じ取ることが重要。そのためにゆっくりとさらにゆっくりと身体を、関節を操作し、どのように動いているかひとつひとつの動作を実感することに戻ることである。この時期は我慢が必要だ。

ポイントは“極端にゆっくりと行うこと”。動きが中途半端に遅いと意味を成しえない。ビデオのスローモーション並みから行うことである。

 ◆負荷を落とす

もう一つは、負荷を落としかつ加減をすることである。パワーアップすることでゆとりを持てば良いのだが、かえってもっと力を出してやろう!と力んでしまうことが多々ある。するとかえって逆効果を引き出すことがある。軽く、加減をした動作を行うこと。

 まとめ

感触のギャップを感じたらそのままにしないこと。ギャップがあったらスピード&負荷を落とすこと。そうしてひとつひとつの感触を実感しきったら少しずつ本来の速さに戻していく。再現性を高めてからスピードを求める。普段のパフォーマンスもこのハンドリングと加減を意識しながら行うことが大切。その点について留意していくことでイップスのような現象も少なくなると考える。

イップス改善事業を開始しました。

2012年1月よりアスリート向けのイップス改善事業をスタートいたします。わたくし自身のこれまでの野球経験はもとより、イップス克服から得たノウハウとコーチングスキルを活用し、イップスに悩む選手たちの一助になることができれば幸いです。当面(2012年2月末まで)はセッション費用はかかりません。競技によってはシーズンオフの選手もいらっしゃると思います。この時期を利用してください。

なお、人材育成事業(研修)は変わらず行っております。お気軽にお問い合わせください。